奈良県立図書情報館
奈良の県立図書館は正式名称を「奈良県立図書情報館」といい、バスで行くには一寸不便ですが、その他はとても良い図書館です。蔵書、特に奈良に関する蔵書が多く、机や椅子もゆったりしていて、館員さんがとても親切です。利用客を増やすために、いろいろな企画やイベントも行っています。 ある時、墨染めの衣を着たお坊さんが書籍検索の端末機の前に座って本を探している姿を見た時は、「奈良らしい!」と写真を撮りたく思ったものでした。
イベント「図書館劇場」
ユニークな企画の一つとして図書館長(歴史学者の千田稔氏)自らが毎回講師の一人として話される「図書館劇場」があります。これは2カ月に1回開催され、2010年度の年間テーマは『平城京をめぐる群像』です。
1月には「鑑真と吉備真備」が取り上げられました。千田館長の吉備真備に関する講演、アナウンサーの都築由美氏の井上靖著『天平の甍』の一部朗読、奈良国立博物館学芸部長の西山厚氏の鑑真和上に関する講演の3部構成でした。
西山厚氏の「鑑真和上の失明」に関する意見
西山氏は、正倉院にある『鑑真奉請経巻状』という手紙の文字を分析することにより、日経新聞(2004年11月15日)の文化欄などで、「鑑真和上は、来日時に完全失明はしていなかった」という説を述べています。その要点は本『迦陵頻伽 奈良に誓う』でも引用させていただきました。
今回の「図書館劇場」における西山氏の講演では、上記の説に関して2004年に西山氏が書いていたこと以外の論拠を聴くことが出来ました。
新たな説明
西山氏が説明して下さった論拠で、私が初めて知った主なものは次の通りです。
@後天的失明者は、先天的失明者に比べて生活諸条件の変化が大きいため、失明後の能力発揮が難しいと言われている。鑑真和上はお経を暗唱していて、日本に伝わっていたお経の間違いを直したり、鼻で薬を嗅ぎ分けたりしている。これらはおぼろげでも視力の助けがなければ実施困難と思われる。
A東征伝絵巻などで鑑真和上の絵はすべて目が開いている。これは絵巻の作者が「鑑真和上は目が見えなかった」ということを知らなかったのではなく、目が見えていたことを表しているのではないか。
B鑑真和上の孫弟子の豊安が書いた『唐招提寺流記』という書物に、「(和上はだんだんと)生の終わりに目が見えなくなった」ということが書かれてある。
私はBを聴いて非常に驚きました。早速調べてみようと思いました。