唐招提寺を理解するキーワード
唐招提寺は律宗の総本山です。律宗では戒律を非常に大切にしています。また、日本で広く読まれています井上靖さんの小説『天平の甍』には授戒とか三師七証とかという言葉が重要な場面で出てきます。これらの言葉は唐招提寺と鑑真和上の日本渡航を理解するキーワードですので、少し言葉の意味をまとめてみました。
戒律とは
戒とは努力目標で自主的・自律的なものであり、道徳だそうです。律とは規律で強制的・他律的なものであり、法律と言って良いそうです。「そうです」と表現が弱い理由は、あるセミナーでAさんから聴いた話の受け売りがほとんどだからです。
お坊さんの場合、守るべき戒は罰則がある律になり、重いのから軽いのまで250以上の戒があります。ただし、数は多いですが、罰則は軽いです。そんな中で私の興味を引いた戒は、お坊さんが破れば重い罪になる妄語戒です。お坊さんの妄語戒とは、悟ってもいないのに「悟りを得た」と言うことで、この戒を破ると罰として教団を追放されます。
授戒とは
授戒とは、戒を授け正式の僧侶として認めることです。戒を受ける方の立場から表現する場合は「受戒」とも書きます。授戒を別の説明の仕方をすれば、「戒律を守ると、誓う儀式」と言えます。
具体的には受戒者が主な戒めについて、「よく保つや否や?」と、生涯その戒を守ることを誓うかと尋ねられ、受戒者が一つひとつの戒について守ることを誓うそうです。
前述のAさんが次のようなとても良い説明をしてくださいました。
「誓を起てることで戒めを守ろうとする勇気が備わり、たとえ戒を破ろうとも自責の念を生むことになり、明日への努力につながります。他律的ですが、そこから自律を引き出して、悟らしめるのです」
戒壇とは
戒壇とは授戒を行う場所のことです。そこは三段の壇でできていますから、戒壇と呼ばれるのだろうと思います。戒壇の壇上で戒を授かる人と三師七証による授戒の儀式が行われます。ちなみに奈良時代に戒壇があった寺は、大和の東大寺、下野(しもつけ)の薬師寺、筑紫(つくし)の観世音寺の3箇所で、天下の3戒壇と言われています。
三師七証とは
三師七証とは授戒を行う3人の師と、その場に立ち会い、戒を受けることを希望する人の受戒を証明する7人の証人の意味です。三師は、ちょっと専門的になりますが、戒を受けたいと希望する人の欠格事項の有無を確認する教授師、受戒を認めて良いかの合議の進行をする羯磨師(こんまし)、戒を授け伝える伝戒和上の3人です。伝戒和上が最も重要な役となります。
鑑真和上が請われて日本へ招かれた理由は、当時の日本に三師七証になりうる高僧がいなかったためでした。