模型、模造、御前立の違い
文化財などではしばしば模型や模造というものが造られます。模型も模造も実物に似せて作られた物ですが、東海大学の柴正博氏によれば、次のような違いがあるとのことです。模型は縮尺が選択できて、推定や復元もできます。一方、模造は実物から型取りまたは計測して、立体的な同一の形に真似て作った物です。
模造と形式的には同じなのではないかと私は思うのですが、御前立(おまえだち)という言葉もあります。御前立は秘仏である本尊の身代わりの像です。多くの場合、本尊がしまわれている厨子の前に安置されていて、人は御前立を本尊の代わりに参拝します。
薬師寺にある模型
薬師寺には3つの興味深い模型があります。それらは薬師如来像の台座、東塔の水煙、西塔心柱の「貝の口継ぎ手」の模型です。
<薬師如来像の台座>
薬師寺の北門受付から入ってすぐの東僧房に、金堂の本尊である薬師如来像台座の実寸大の模型が置いてあります。金堂では台座の北面しか十分に観られないのですが、ここでは模型ですが東、南、西の3面をしっかり観ることが出来ます。模型台座の北の面は東僧房の壁面に近く、一寸観づらいです。
薬師如来像の台座は、奈良がシルクロードの終着点であることを示す非常に良い事例で、台座の壁面にはギリシャの葡萄唐草文様、ペルシャの蓮華文様、インドの蕃人像、そして四方の面のそれぞれに中国の四神(青龍、朱雀、白虎、玄武)がレリーフで描かれています。
なお、東僧房内は写真撮影が禁止されていませんので、撮りました台座模型の東面の写真を掲載します。
<東塔の水煙>
塔の屋根の上から空に向かって突き出ている金属の部分を相輪(そうりん)と言います。相輪は下の方から露盤、伏鉢(ふせばち)、九輪(くりん)など、いくつかの部材で出来ているのですが、上の方には、塔が火災に遭わないよう水煙というものが付けられています。薬師寺・東塔の水煙は飛天の姿を透かし彫りにした美しいものです。透かし彫りは相輪の中心の棒のところで東西と南北に取り付けられていますから、東南の方角から水煙を見上げれば透かし彫りが90度の開き角度で見えることになります。
中心の棒の両側に左右対称で6体の飛天がいます。東南、南西、西北、東北の四方から飛天が見えますから、全部で24体の飛天がいるとも言えます。歌人の會津八一が「すゐえんの あまつをとめが ころもでの ひまにもすめる あきのそらかな」と歌ったのはこの飛天と澄んだ空だったのです。
水煙は塔の上部先端に近いところにありますから地上から遠く離れ、望遠鏡もしくは望遠レンズを付けたカメラで見ないと、水煙の詳細はほとんど分かりません。そのため、望遠鏡なしでも水煙をしっかり見られるように、水煙の実物大の模型が東院堂の中に置いてあります。残念ながら十字に交差した水煙ではないのですが、平面状態で左右対称の透かし彫りを観ることができます。
<西塔心柱の貝の口継ぎ手>
東院堂にはもう一つ、ちょっと変わった模型があります。それは昭和に再建された西塔の心柱の繋ぎ方の模型です。塔は高さがありますから、真ん中に立てる柱は1本の木材では足りません。西塔の場合、4本の柱を繋いで立てています。この柱を継いでいる方法が「貝の口」継ぎ手と言われるものです。組み合わされる柱の両方に、大きく出っ張ったところと削り取られたところがあり、そこが嵌め込まれることによってピシッと継がれるのです。「貝の口」とはよくぞ名付けたものだと感心してしまいます。
この縮尺模型は、紐を引いて柱の一方を持ち上げ、次に紐を緩めてその柱を下げ、貝の口継ぎ手がどう組み合わされるのか、自由に操作して確認することが出来ます。