宮大工・西岡常一棟梁へのインタビュー映画

2012年2月4日公開のドキュメンタリー映画『鬼に訊け』は薬師寺の金堂や西塔を再建した宮大工・西岡常一棟梁へのインタビュー映画です。西岡棟梁の肉声が聞け、現場で鍛え上げた人の信念をビシッ、ビシッと感じさせられました。

初めて知ったこと

この映画を観て、私が初めて知った主なことがらは次の通りです。

<法輪寺の三重塔と鉄骨使用>

法輪寺の三重塔を再建するとき、西岡棟梁は鉄を無理矢理使わされたと今まで思っていたのですが、映画ではインタビューに応えて「設計者の学者が来たときだけ、鉄を使ったふりをした」という意味のことを話していましたので、とても驚きました。

映画を観た後、本で調べてみました。設計した学者と西岡棟梁の間で、「鉄骨を使うべき」「鉄骨を使うべきでない」の大激論が行われ、鉄骨の使用は当初の設計から3分の1になったとのことでした。西岡棟梁は3分の1の使用もしたくなかったため使用したふりをしていたようですが、その後、実質的に現場を任せていた副棟梁と施主の法輪寺の話合いにより、鉄骨は量が少ないものの使われました。副棟梁が使ったということは、最高責任者である棟梁が気持は反対ながら、結果的にそれを認めたということでしょう。

<法隆寺と西岡棟梁の関係>

法隆寺の宮大工だった西岡棟梁が薬師寺の宮大工の棟梁になることは、両方の寺の話し合いによりスムーズに合意されたと、私はこれまで理解していました。しかし映画では、法隆寺と西岡棟梁の間にすきま風のようなものが発生していたとナレーションがありました。

このことについて事実がどうだったのか、私には分かりません。今後意識して情報を集めてみたいと思います。

<薬師寺の金堂と三重塔の高さ>

薬師寺の金堂の高さは、三重塔の三層の軒下の高さになるように設計されてあるそうです。その方が塔と金堂の高さの釣り合いがとれて、観た感じが良いからです。このことは依然に本で読んでいるはずなのですが、私の印象に残っていませんでした。映画の中で図示されて、初めてしっかり認識しました。

<工具のヤリガンナ>

西岡棟梁が復元した工具のヤリガンナは長い棒の先に金属の刃が付いているものですが、金属の両側が刃になっていて、若干反っていることを知りました。そして、ヤリガンナで木を削るとシュルシュルと木が薄紙のように削り取られて丸まっていくことに目を見張りました。

メッセージとして深く感じたこと

西岡棟梁のメッセージとして深く感じたことは次の3点です。

<現場の経験を尊重すること>

薬師寺の西塔を再建するにあたって西岡棟梁は東塔の実測調査をします。その時に言っている話の内容は、「実測調査も実際に現場で働いている大工がしないといけない」というものでした。理屈で考える学者では物の実態が感じ取れないということです。現場の経験から身に付いてくる知恵や直感を尊重しなければいけないのだと思いました。

<本当の仕事をすること>

映画のラストで西岡棟梁が話している言葉に次のようなものがありました。なにしろ映画ですので一瞬にして話が過ぎていき、文としては正確ではないと思いますが、おおよその内容は正しいはずです。「細かいことにも手を抜かず、本当の仕事をすることが大事」

<金堂再建でコンクリート使用に絶対反対であること>

薬師寺の金堂再建では、仏像の保存の関係で堂の内部を鉄筋コンクリート造りにしなければ建築許可が下りないため、西岡棟梁はやむなく鉄筋コンクリートを使います。しかし、それは最大の無念だったようで、映画の中でも絶対にすべて木材で造るべきだったと述べています。

現代技術の耐火耐震の建築思想に対して、「木のいのち」の力を知りぬいた宮大工棟梁の確信、信念はこれほどまでに凄いのだと感じさせられました。

その他の印象

映画で見た西岡棟梁の顔は少しやせているように思いました。薬師寺境内で偶然に私が本人に会ったときや、本に掲載されている写真を見たときは、もっと頬がふっくらしていました。西岡棟梁が病気になってから、映画のインタビューが主に行われたのかもしれません。そうだとすれば、西岡棟梁は次の世代に自分の考えや経験から得たものをできる限り伝えようとして、インタビューに応じていたに違いないと思いました。