唐招提寺の団扇撒き
5月19日に唐招提寺で伝統行事の「団扇撒き」が行われました。団扇撒きの本来の趣旨は、同寺中興の祖であります覚盛上人の命日法要です。そのため、この日には通常一般公開されていません中興堂が公開され、覚盛上人坐像を参拝することができました。
今年の団扇撒きの特色
今年、何年か振りで団扇撒きに行ってみて、以前の団扇撒きと大分変ったなと思うことがありました。
これは知っていたことですが、鼓楼の上から撒く団扇を拾える人が200名に制限されていました。当日9時から先着順に団扇撒き参加券が配られたとのことですが、朝の5時半から並んだと言っている人もいました。200人を3グループに分け、時間差をつけて鼓楼の周囲に来てもらい、団扇を撒きました。限られた数の人にそれ相応の本数の団扇が撒かれましたから、かつてのように激しく奪い合うこともなく、整然と団扇が取られていました。
争って取るのではないため上品な行事となり、怪我人も出ず、寺として十分参拝客のことを考えての処置と言えます。ただ、以前のような活気が感じられなくなったのは残念でした。無病息災などを願って団扇を取ろうとする人々の沢山の手が頭上に伸び、「求める手」が「授ける手」のように見えて千手観音を思い出させるという、拙著『迦陵頻伽 奈良に誓う』で書いた情景は想像できづらくなっていました。
団扇と扇面の展示
私の今年の団扇撒き参拝の目的は、団扇に書かれている言葉をしっかり見ることでした。寺のお坊さんたちだけでなく各界の著名人などが多種多様な揮毫をしていますから、そこから学べることがあると思ってのことです。
今年書かれた扇面は赤い縁取りをされ、竹の柄もある団扇となって展示されています。鼓楼の東面を除く三面に白布の敷かれた斜めの台が作られ、そこに立て掛けて並べられています。全部で100本を超える団扇のそれぞれに文字や絵などが描かれていてとても綺麗です。
一方、過去に書かれた扇面は屏風に貼り付けられて、礼堂の縁側にぐるりと並べて展示されています。日ごろは落ち着いた雰囲気の礼堂が、屏風で飾られて華やかに感じられます。
屏風は6曲で、1曲(面)に約10枚の扇面が貼られていますから、1つの屏風に60枚前後の扇面があることになります。屏風は礼堂の周囲に隙間なく立てられていましたから、全部ではどれほどの数の屏風になり、扇面になるのでしょうか。唐招提寺の説明では「絵うちわ百双屏風」とのことですが、礼堂の周囲および中興堂内に展示された屏風だけで百双つまり200屏風になるとは思えませんから、おそらく一部の展示なのでしょう。
なお、数年前に東室の室内で扇面が貼られた屏風を観た時は、扇面が揮毫された年ごとの屏風でした。あの年代物の屏風は、今は一般公開されていないのかもしれません。