雑誌『VISA』6月号の特集記事

クレジットカードのVISAが発行しています雑誌『VISA』の2012年6月号に、特集記事として「風と祈りの国、ブータン」が掲載されています。ヒマラヤ東端にあるこの国は、「国民総生産量(Gross National Product 、GNP)」ならぬ「国民総幸福量(Gross National Happiness、GNH)」を政策指標にしていることで有名です。

雑誌『VISA』では、ブータンの人々がチベット仏教を信じ、輪廻転生の考えに基づいて、現世での功徳を積んでいると伝えています。

グル・ラカン(グル寺院)僧院長の言葉

私が特集記事の「風と祈りの国、ブータン」に強く関心を持ったのは、グル・ラカン僧院長であるプッ・ドルジ氏の大変温和な顔写真を見、取材記事を読んだためです。グル・ラカンは、7世紀に建てられたブータン最古の寺院であるキチュ・ラカンの横に、今から40年前の1972年に造られた寺院です。その僧院長に、ブータン国王から請われて30年前に就任し、現在もその職に就いている人がプッ・ドルジ氏です。

取材記事の中で、プッ・ドルジ氏は次のように述べていました。

「昔に比べれば、ブータンは非常に豊かになりました。(中略)。快適な生活を営むという意味で、確かに国民は幸福になっているのです。

しかし、それがブータンのより良い将来を約束するかどうかは、誰にもわかりません。アメリカやヨーロッパ、そして日本のように、物質的な豊かさを手に入れたとしても、それと引き替えに、これまでは存在しなかった不幸を生んでしまうこともあるのです。私はブータンの未来を心配しています」

物で栄えて心で滅ばぬように

プッ・ドルジ氏の言葉を読んで、すぐに「これは薬師寺の高田好胤管長の言っていたことと同じだ」と私は思いました。高田好胤管長が書いてミリオンセラーになった本『心 いかに生きたらいいか』の中に、「物質的な豊かさというものが、精神的貧困の上に成り立っているのだとしたら無意味です」とありました。そして「物で栄えて心で滅ばぬように」しなければいけないと、高田好胤管長は著作や講演で訴えたのでした。

松下幸之助氏の言葉と「まほろば塾」

1970年に「進歩と調和」をテーマとする大阪万博が開催されました。安田暎胤・薬師寺前管長によれば、その頃、松下電産(現パナソニック)の創業者の松下幸之助氏が、ほぼ30歳年下である当時の高田好胤管長に、「世の中をおかしなものにしないよう、あなたが中心になって、心の復興に取り組んでほしい」と話したそうです。

これが契機となって、高田好胤管長は日本人の心を受け継ぐ会として「日本まほろばの会」を作りました。そして、その精神を引き継いで安田暎胤前管長が「まほろば塾」を立ち上げました。「まほろば塾」は奈良その他で開催されているセミナーで、物が豊かになった一方で失った心を取り戻す運動、つまり人づくり運動に取り組んでいるのです。