奈良のお菓子

奈良のお菓子といえば、蕨粉で作った冷たい「わらびもち」、吉野の葛が材料の「葛餅」、大きな三笠焼きの「三笠」、干菓子の「青丹よし」などいろいろありますが、ここでは神社や寺に関係が深いお菓子について述べてみます。

ぶと饅頭

餢飳(ぶと)は春日大社で神様に供えられている食べ物であり、奈良時代に唐から製法が伝えられたと言われています。それを奈良市餅飯殿(もちいどの)センター街にあるお菓子屋さんが春日大社から了解を得て、素材に若干の変更を加えて製造し「ぶと饅頭」という名で販売をしています。

ぶと饅頭は一個ずつ紙で包まれ、紙には春日大社の紋である下がり藤の模様が印刷されています。お菓子は餃子のような形をしていて、油で揚げてあり、周囲にうっすらと砂糖がかけられています。茶褐色の皮は薄く、中には甘さを抑えた餡が入っています。味は見た目ほどきつくなく、さっぱりした餡ドーナツ、揚げ饅頭のような感じです。

みむろ最中

奈良県桜井市にある大神(おおみわ)神社は大和で大変敬われている神社です。本殿はなく三輪山そのものがご神体となっています。三輪山は昔、三諸山(みもろやま)とか御室山(みむろやま)と呼ばれていました。その名前を商品名にして、大神神社の大鳥居のすぐ側で販売されているものが「みむろ最中」です。最中の皮には「みむろ」と文字が表され、餡は艶々と光っていて、皮と餡ともに上品な味わいです。この最中は大きさが大と小の二つあり、小が10個箱詰めされたものは近鉄奈良駅の売店等でも売っています。

お水取りの季節の椿菓子

東大寺二月堂のお水取りが行われます3月上旬の頃に、奈良の多くの有名な和菓子屋さんがいろいろな名前で作って販売している上生菓子です。名前だけ挙げても「糊こぼし」「修二会の椿」「開山良弁椿」「二月堂椿」「御堂椿」「開山椿」「南無観椿」などです。

お水取りの時に二月堂須弥壇に椿の造花が飾られますこと、東大寺の開山堂には良弁椿という椿が植わっていて、花は赤い花びらに白い斑点がありますこと、それらがこの季節菓子のモチーフになっています。お菓子の「糊こぼし」という名前は、良弁椿の花が、須弥壇に飾る花を造るときに花びらの赤い紙へ白い糊をこぼしたものと似ているため「糊こぼしの椿」と呼ばれているところから付けられたものと思います。また、「南無観椿」とはお水取りで僧侶が祈る言葉の「南無観世音菩薩」の短縮された言葉から来ています。

椿菓子は店によって赤と白の花弁が3枚と2枚のもの、反対に赤が2枚で白が3枚のものがありますが、花芯に相当する中心部はどこも黄色です。色が赤白黄と鮮やかなのが椿菓子の特徴で、素材は練切と黄味餡が大半です。購入は各お菓子屋さんの本店や支店などでできます。

唐招提寺の干菓子

唐招提寺で「鑑真大和上御影像造立結縁写経会」に参加した時、写経会場の隣室で抹茶と干菓子が出ました。干菓子は二つあり、一つは金堂の鴟尾(しび)の形をしたもの、もう一つは丸瓦の形をしたものです。丸瓦には「律」という文字を中心に「唐招提寺」の4文字が周りに施されていました。色はどちらも灰色ないし黒っぽいものでした。

私は鴟尾の形をしたお菓子を食べ抹茶を飲みました。干菓子はちょっと固めで、古代の感じがしました。丸瓦の干菓子は後で写真を撮ろうと思い、お菓子が載せてあった懐紙に包んで茶の席を辞しました。我が家への帰り道、この干菓子に名前を付けるなら2つセットで「天平の甍」が良いかなと思いました。

後日、唐招提寺売店の女性にこのお菓子について聞きましたら、非売品で特別の時にしか作っていないそうです。また、作っているところは大和郡山のお菓子屋さんですが名前は知りませんとのことでした。

薬師寺の干菓子

薬師寺にも干菓子があります。薬師寺の南門を入ってすぐ右側の建物が休憩所と売店になっていますが、ここで干菓子を販売しています。「白鳳の飛天」と名付けられたお菓子は吉野葛の打菓子で紅白2種あります。紅は東塔の水煙の模様が浮き彫りされています。笛を吹いている「飛天」の姿です。白は印鑑の文字として使われる篆書(てんしょ)体で「薬師大寺」と打ち出されています。食べてみますとお菓子がサクッと砕けて、葛の味と適度な甘さが口の中に広がります。

なお、このお菓子はならまちのお菓子屋さんで作っているのですが、店では販売していません。薬師寺の境内でのみの販売です。