奈良でホトトギスの鳴き声は?

1年前、龍谷大学の生涯学習講座で奈良・西ノ京へ現地学習に行った際、受講者のお一人から「奈良でホトトギスの鳴き声が聴けるところはどこですか」と質問をされ、答えることができませんでした。それというのも、私はホトトギスの鳴き声を聞いたことがなかったからです。

初めて聞いたホトトギスの鳴き声

つい先日、知人と二人で奈良市西部を歩いていたとき、「キュキュ、キュキュ」と小鳥の鳴き声が聞こえました。鶯が鳴き方を練習しているような音です。鳥について多少詳しい知人が、「ホトトギスの鳴き声じゃないかな?でも、ホトトギスならテッペンカケタカと鳴くはずだが・・・」と言いました。

「キュキョ、キュキョ」と鳴いています。私には「ケキョ、ケキョ」と聞こえました。上手に「ホー、ホケキョ」と鳴けない鶯に違いありません。ところが知人は、「やっぱり、ホトトギスだ。テッペン、テッペンと聞こえるだろ?」と言います。そう思って聴けば聴けないことはないかなぁと私は首を傾げました。

その直後に聞こえたのです。「テッペンカケタカ、テッペンカケタカ」。

ホトトギスが初夏に日本へやってくる渡り鳥であり、そのためにホトトギスは時鳥とも書かれるということは知っていましたが、実際に鳴き声を聞いたのはこれが初めてでした。嬉しかったです。

知人からの受け売り

知人は私に、「ホトトギスは鶯の巣に卵を産み、鶯に卵を温めてもらうんだ」と教えてくれました。また、「平安時代にはホトトギスの鳴き声を誰よりも早く聴こうとして徹夜する人がいたらしい。『枕草子』にそう書いてあるそうだ」と話してくれました。

そういうことをまったく知らなかった私は不勉強を恥じて、さっそく『枕草子』にあたってみました。ありました、ありました。第38段(角川文庫『新版 枕草子』2011年)の「鳥は」です。

なお、下記に引用した文書の「郭公」は平安時代にホトトギスを意味していたそうです。

「郭公は、なほ、さらに言ふべきかたし。<中略>。五月雨の短き夜に寝覚めをして、いかで人よりさきに聞かむと待たれて、夜深くうちいでたる声のらうらうじう愛敬づきたる、いみじう心あくがれ、せむかたなし」

唐招提寺障壁画とホトトギス

唐招提寺の御影堂の障壁画は東山魁夷さんの作品ですが、上段の間の「山雲(さんうん)」の絵にはホトトギスが描かれています。部屋の西側に大きな床の間と脇床があって、脇床の天袋の襖にうっすらとホトトギスが一羽飛んでいます。通常の広縁からの拝観では観えづらいですが、上段の間と寝殿の間との間にある襖が開け放たれたときはしっかり観られます。このホトトギスの絵は、唐招提寺の開山忌が初夏であるため、その季節感を表しているとのことです。