ならまち
一般に奈良と言えば、大仏と鹿がすぐに思い出され、お寺と神社の町として有名ですが、最近、奈良市の中心街の南側にある「ならまち」という地域が注目を浴びています。古い街並みが残っていて、資料館や土産物屋そして町屋風の飲食店がかなりの数あり、半日の散歩コースとしてお勧めです。
私はならまちへ行く度、今までに入ったことのない店を見つけてはコーヒーを飲んだり食事をしたりしていますが、先般、興味深い店で抹茶を飲みました。
薬師寺の干菓子を作るお菓子屋さん
薬師寺の売店でのみ販売している干菓子「飛天」がとても美味しいため、それを作っているお菓子屋さんへ行って、お菓子を買おうと思いました。店の名前は「樫舎」。これで「かしや」と読むようです。確かに読めないことはないですし、「かしや」というお菓子屋さんの名前も面白いです。どこから樫という文字を使うようになったのか、そのいわれは現在の私には分かりません。
樫舎さんの店舗
道路に面してメニューが飾られ、お茶が飲めると書いてありましたので、ガラガラと引き戸を開けて中へ入りました。中は狭い土間になっていて、正面には横幅半間ばかりの茶箪笥を向こう向きに置いたようなカウンターがあり、奥との仕切りになっている暖簾の上を見ると、細長い縦の板に「春日大社様御下命」と墨で書かれています。
右手は土間から60センチメートルくらい高い畳の小さな部屋です。お茶を飲むには、靴を脱いでその畳の部屋に上がり、そこから急傾斜この上ない階段を上って2階へ行きます。階段は下に収納引き出しが段々についている、古い民家でしばしば見かけるものです。
階段の登り口の壁には、四角い一枚板に薬師寺の「般若心経のこころ」が書かれて掲示されていて、階段の脇には太く丸い竹が斜めに手すりのように立てかけてあります。よく見ると先の方には真っ黒な燃えかすが付いています。その竹は東大寺二月堂のお水取りで燃やされた松明でした。
樫舎さんのお菓子
2階の畳の部屋で小さな座卓を前にして座り、抹茶と季節のお菓子を注文しました。最初に、冷たい番茶が落ち着いた色合いの赤膚焼の茶碗に入れられて出てきて、その後、典型的な赤膚焼の模様が描かれた茶碗に抹茶がたっぷり入って供されました。お菓子は「くず焼き」といって葛と漉し餡で作られたものです。とても上品な味わいで、特に餡がなめらかな感じがしました。
樫舎さんのお菓子は「くず焼き」のほかに「蕨餅(わらびもち)」や練り切りの季節菓子など非常に美味しいです。また、夏の「かき氷」は大きな漆器に宇治金時が山盛り出てきて、氷の歯触り、抹茶の蜜、小豆や白玉そして寒天が素晴らしい味わいです。
値段は奈良のお菓子としてはかなり高めですが、その味は特筆ものです。おそらく最高の素材を使い、丹念な作り方をしているのでしょう。
奈良との一体感を感じる店
私が樫舎さんを好きなのは、お菓子の味が素晴らしいこと、お茶がうまいこと、そして店の雰囲気が良いことです。雰囲気がどこから醸し出されてくるのか考えてみました。ならまちの一角にあり、古さを感じさせる家であり、店内には奈良の寺社の関連物が掲げられ、使われる器も奈良の赤膚焼の落ち着いたものだからでしょうか。
ここでお茶を飲むと、奈良の町の空気や、人の生活、息遣いが伝わってくるように思います。奈良との一体感を感じる店なのです。