NHKテキスト『般若心経』の抜粋要約の続き

<「空」に関する釈迦の主張>

 1.この世には最小単位の基本要素が実在している。

 2.その基本要素が因果則によって刻々と変化することによって、様々なものごとを形成している。

 3.安定的に物としてあるように見えるが、実際はそれらを形作っている基本要素の集合体にすぎないので実体がない。そして常に変化し続けている。

 4.それが「空」である。

(この3項と4項の説明の時に、般若心経で一番有名な言葉である「色即是空」が出てきます)

 5.基本要素の実在と、それらの間の法則性は真実だから、釈迦の教えにしたがってこの世を見れば、世の中を正しく理解できるということになる。

 6.釈迦は隙のない論理で世界観を構築しているだけに、思考がスッキリするが、人の情が求める「救い」の要素があまり感じられない。

 7.釈迦の仏教は、「この世界の因果則は厳然たるものであって変えることはできない。だから、特別な努力をして自分の心のあり方のほうを変えよう。それによって生きる苦しみに打ち勝っていこう」という考え。

<「空」に関する般若心経の主張>

 1.この世を構成している基本の要素などはない。

 2.その要素間に働いていると考えられていた因果則も存在しない。

 3.基本要素の存在と法則性が錯覚なのだから、いくら知恵を絞って世の中を分析しても、この世の真の姿は分からない。

 4.それはもう、言葉で表すことのできない神秘の世界なので、「空」としか言えない。

 5.この世界は、人知ではとらえがたい「神秘的」な形で存在している。

 6.大乗仏教は、この世の厳密な因果のシステムを否定したから、すべてが漠然とはしたが、反面、ぼんやりとでも希望がもてるようになった。

 7.大乗仏教の般若心経では、「自分を変えるのではなく、逆に世界の因果則のほうを変える、具体的には般若心経の呪文を唱えることによって、心にパワーをもらい、救いを感じていこう」という考え。

般若心経の中核部分:呪文

 般若心経の中核部分である呪文とは、次の言葉です。

 「羯諦羯諦波羅羯諦(ぎゃていぎゃていはらぎゃてい)

 波羅僧羯諦(はらそうぎゃてい)

 菩提薩婆訶(ぼじそわか)」

 呪文ですから、言葉の威力が減らないよう、インドの古い言葉であるサンスクリット語の音を、そのまま同じ音の漢字に置き換えたそうです。そのため、この呪文の漢字に意味はありません。

 佐々木 閑さんの訳によりますと呪文の意味は以下の通りです。

 「行った者よ、行った者よ、彼岸に行った者よ、

 向かい岸へと完全に行った者よ、

 悟りよ、幸いあれ」

 意味としてはちょっと分かりづらいです。以前読んだ般若心経に関する本には、薬師寺の高田好胤管長がこの呪文を次のように唱えていたと書いてありました。

 「行こう、行こう、さあ行こう、みんなで幸せの国へ行きましょう」

呪文に対する私の感想

私はこの呪文を見ていますと、結局「救ってください」、言い換えれば「幸せにしてください」と、ただそれだけを祈っているように思います。

そして、その一言で、人のすべての切なる願いは表わされているように思うのです。

願うこと、祈ること、そして願いが実現するようできる限りの努力をしていくことが、幸せになる道のように感じます。

佐々木 閑さんのまとめの言葉

・自分の中の、「理性で考える」部分と、「神秘を信じる」部分を明確に役割分担するのが良い。

・合理的な論理性をもって判断すべきことがらは、意志でしっかり判断する。

・そして、判断したことに対して自信を持って進んでいくために――いわば「後押し」として――神秘の力を求める。

・こういった生き方が一番、人生の苦しみを軽減してくれるのではないか。