モニターツアーに誘われて
奈良県南部の活性化を図ろうとしている協議会のモニターツアーに誘われて、1泊2日の旅をしました。大和郡山市発着のマイクロバスで五條市、洞川(どろかわ)温泉、天河大弁財天社、鳳閣寺、金峯山寺、吉野蔵王堂を巡ります。1泊4食付きで通常2万円はかかるところを1万5千円のツアー代金でした。
見るべきもの多い藤岡家住宅
奈良県南西部の五條市近内町に古民家で登録有形文化財の藤岡家住宅があります。私はツアーのバスでそこへ連れられていくまで、藤岡家住宅の存在を知りませんでした。
藤岡家は江戸時代には庄屋でした。両替や薬種の商売などもしていた地元の名家で、明治時代には政府任命の県知事を出しています。
家屋は十棟あり、近年修理の手が加えられて一般に公開されたとのことですが、襖に描かれた琵琶湖の絵や屋久杉をふんだんに使った部屋、そして戸を取り払えば舞台になる家の作りなど、興味深い建物です。
また、熊本県の知事などになった藤岡長和は玉骨(ぎょっこつ)という号で俳句をやり、高浜虚子や与謝野鉄幹、森鷗外などと交流がありました。そのため、それらの人の言葉が紹介されたり、書が額や掛け軸などになって展示されたりしています。他に当時の政治家や画家の手になる書や絵もあります。
藤岡家住宅の中では食事や喫茶ができる部屋があり、出された和食の弁当は地元の素材を使った味の良いものでした。
ここは「うちのの館」というNPO法人がボランティアスタッフで運営しているのですが、理事長はあの柿の葉寿司「たなか」の創業者さんで、家業は子供さんに任せて、現在は藤岡家住宅の維持運営や町おこしに尽力されています。
情緒ある洞川(どろかわ)温泉
宿泊は吉野郡天川村の洞川(どろかわ)温泉です。ここは私が以前から泊まってみたいと思っていた温泉であり、今回のツアーに喜んで参加したのも宿泊場所がここだったからです。
洞川温泉は大峰山へ登って修行する修験者の宿として昔から知られています。温泉街はなだらかな坂道になっていて、道の両側にある側溝からは流れる水の音がします。道沿いの旅館にはどこも濡れ縁や縁台があって腰を下ろせ、旅館の軒下には細長い黄色い提灯がいくつも掲げられて灯りがついています。
さらに頭上を見ると、ところどころに道路をまたぐ形で赤く丸い提灯と細長い黄色の提灯が灯されています。静かで、夏なのに涼しく、提灯の灯りに癒される、情緒満点の温泉でした。
女人結界
翌朝、大峰山の登山口で、「ここからは女性は入ってはいけない」ということになっている女人結界の碑と門のところへ行きました。当初の予定では見学することにはなっていなかったのですが、多少時間に余裕があるとのことでバスを回してくれました。タクシーがあれば早朝に一人ででも行ってみようかとも思っていた私は非常に嬉しかったです。
高野山や比叡山が女人禁制をやめて誰でもが登れるようになっていますのに、ここ大峰山は宗教的伝統として女人禁制を継続しています。現地へ行って、結界門と「從是女人結界」(これよりにょにんけっかい)と文字が深々と彫られた石碑を見ました。
ツアー参加者からは次のような意見が出ていました。
「男女にはそれぞれ違いがあるのだから女人禁制継続で問題なし」
「宗教的伝統で女人禁制OK」
「女人禁制を止めたら、もっと多くの人が大峰山や洞川温泉へ来るようになる」
「大峰山へ登りたい人が登れないのは、やはり男女差別で良くない」
鳳閣寺から金峯山寺への山歩き
天河大弁財天社から黒滝村に入り、坂道をマイクロバスで登り、その後コンクリート道ながら急角度の坂を必死に徒歩で登って、修験道の理源大師が祀られている鳳閣寺へ行きました。
鳳閣寺からは山歩きです。日ごろ運動不足の私はフーフー息を乱し、汗をダラダラ流しながら百貝岳頂上に登りました。標高はわずか863メートルなのですが、体に堪えました。そこからいわゆる奥千本と言われる吉野の金峯山寺までほぼ下りの山道を歩いて行きました。
途中、私たちツアーのメンバーが歩いている左手の方からガサガサと音がしました。先頭グループで歩いていた私たち4人が「何かいるのでは?」と話しながら歩いていましたら、再びガサガサという音がします。
その直後、ドーッと一頭の大きなイノシシが目の前10メートルくらいのところを横切って、右手の斜面に走っていきます。文字通り猪突です。驚いて目を見開いていましたら、その後に「うり坊」(イノシシの子供)が3匹か4匹、親イノシシを追って走っていきました。私は生まれて初めて野生のイノシシを見ました。