桜の季節を外して
吉野と言えば桜がとても有名です。私も桜を観に吉野へ何度も行きましたが、今回は趣を変えて、緑濃い吉野へ行ってきました。春のような大混雑はなく、適度に観光客が散策していて気持ち良い旅となりました。
緑に圧倒された名庭園
最初に名庭園の竹林院群芳園の庭園へ行きました。ここは私が吉野へ行った時には必ず寄る場所で、千利休が作ったという綺麗な池泉回遊式の美しい庭があります。春は池の周りがいろいろな花で彩られるのですが、今は緑一色です。木々の沢山の葉が回遊路だけでなく池の上にまで茂り、木々の生命力に圧倒されました。
如意輪寺
如意輪寺は吉野駅から中千本駐車場へ行く途中、緑の木々が生い茂る中にあります。この寺は楠正成の子の正行(まさつら)が、足利尊氏との戦いの前に辞世の歌をお堂の扉に鏃(やじり)で書いたことで有名です。宝物殿の中にその古い扉の板が展示されていますので、じっくり見ました。鏃でググググッと刻むように書かれた文字のはずですが、字体は流麗な万葉仮名です。漢字は草書体に近く、なかなか読めません。
たまたま宝物殿の中で一緒になった参拝者と協力して、一文字、一文字、順に解読してみました。その結果、次のように読み取れました。
「かえらじと かねて思へば 梓弓 なき数に入る 名をぞとどむる」
また、宝物殿の中には簡単な寝台があり、仰向けに寝て、天井に描かれた大きな観音の絵を拝むことができるようになっています。ヨーロッパの教会や美術館に多い天井フレスコ画を日本の寺で見ているような、ちょっと変わった感覚がしました。
歴史が詰まった吉水神社
吉水神社は、春には神社に入る前の場所から「一目千本」と言われる桜が見られます。眼前に谷があり、谷から右手の山の頂に向かって桜が一面に咲きます。夏の今は緑がいっぱいでした。
吉水神社の中を拝観していくと、そこは歴史がぎっしりと詰まっていて、部屋が変わるたびに地層が違う遺跡を発掘しているような気持になりました。最初に源頼朝の追手を逃れて潜んでいたという源義経と静御前の「潜居の間」があり、南北朝時代に無念のうちに亡くなった後醍醐天皇の「玉座の間」があり、この吉水神社(当時は吉水院)に本陣を置いて吉野の豪勢な花見をした、豊臣秀吉の愛用の金屏風が展示されている部屋がありました。平家物語、太平記、太閤記という歴史が大きく変化する時の物語の現場や現物が、手を伸ばせば触れられるような近さにありました。
他にも歴史好きにはたまらない逸品を見ました。百人一首に出てくる蝉丸が使っていた琵琶とか、一休禅師の書、そして水戸黄門や家来の助さんの書状などです。
美味しかった豆腐料理と桜羊羹
今回、美味しかった食べ物は吉野の豆腐料理です。店の名前は「豆冨茶屋 林」で、豆腐づくし膳を食べました。大きなざる豆腐にダシをかけて食べます。ざる豆腐は白い色ではなく、うっすらと緑色をしています。枝豆が使われているとのことで、甘みとコクがあり、非常に美味しく感じました。
お土産は吉野の定番の一つである桜羊羹にしました。買った桜羊羹は三層になっていて、下が小豆の羊羹、中間は白い色をしていて、上は透明な寒天です。その寒天の中に淡いピンクの桜の花びらが入っています。食べると桜の花びらは微かに塩味がして、下の小豆の羊羹の甘さと互いに引き立てあい、吉野の味に「また会った」と嬉しくなりました。