3、東大寺・本坊の襖絵

東大寺の本坊は南大門をくぐってすぐの右手にあります。参道を挟んで東大寺ミュージアムの向かい側に位置しています。その本坊に小泉淳作画伯が描いた襖絵があります。毎年春、桜の咲く頃に3日間だけ一般公開されます。

ここの絵で圧倒されるのは蓮の絵と桜の絵です。蓮の絵は種類の違う数多くの蓮が、蕾や白や赤の花開いた状態で描かれています。本坊の庭にある池の方から襖絵がある部屋を撮った写真を見たことがありますが、それによると、池に咲く本物の蓮の花と、室内の襖に描かれた蓮の花とが2段になっていて、蓮の上に蓮の世界がまたあるというふうに感じられました。これは蓮華の上に盧舎那仏(奈良の大仏)が作った美しい世界があるという華厳経の教えを表しているのでしょう。

桜の絵は、「東大寺本坊の桜」「しだれ桜」「吉野の桜」の3種類が描かれています。

どの絵も花びらの一つひとつが丹念に描かれ、桜の花全体がとても華やいでいます。丁寧に描かれた花びら一枚いちまいが桜の木全体の美しさを造り、桜の木全体の美しさは花びら一枚いちまいにその美しさを凝縮し宿していると言えそうです。「一即多、多即一」という考えが華厳経にあるので、それを表しているのかもしれません。

なお、「しだれ桜」のモデルは奈良県大宇陀にある「又兵衛桜」です。

4、法隆寺・金堂の壁画

本当は最初に法隆寺・金堂の壁画を私は観ているはずなのですが、まったく印象に残っていません。1949年(昭和24年)に金堂の火災で壁画が焼損し、1968年(昭和43年)に再現壁画が金堂に納められましたが、私は金堂内で壁画を観た記憶がありません。それと言うのも、以前の法隆寺金堂は非常に暗く、釈迦三尊像など主だった仏像以外は目に入ってこなかったからです。

近年、法隆寺がLED照明を点けて金堂内をある程度明るくしてくれました。また壁画がどこにあるかを書籍で調べて晴れた日に金堂へ行き、明るい堂内を丹念に観まわしてみたら、再現壁画を観ることが出来ました。私たちが金堂内に入って歩くところは堂の廂(ひさし)の下であり、壁画は廂部分より中の外陣(げじん)および内陣(ないじん)にありますから、身を乗り出すようにして金堂内部を観ないと、壁画をよく観ることができないのです。

外陣の大きな壁面には仏様の図が描かれています。種々の説はあるものの、一般的に言われていますのは、四方仏(東:薬師如来、南:釈迦如来、西:阿弥陀如来、北:弥勒如来)とその脇侍(わきじ、きょうじ)の図などです。内陣の上の方の小さな壁面には飛天図が描かれています。

飛天図は金堂の火災発生時に取り外されて他に保管されていましたから、現在も本物が残っていて、法隆寺の大宝蔵殿で観ることが出来ます。また、焼損した壁画と焼け焦げた柱などは大宝蔵殿近くの収蔵庫にしまわれていて一般には観られませんが、一般公開の検討が近年開始されました。

なお、法隆寺・金堂の元々の壁画を描いた作者は誰か分かっていません。