●ボタンで有名な長谷寺
奈良県東部の桜井市の初瀬(はせ)にある長谷寺(はせでら)は長い登廊の両側に咲くボタンが有名です。年によって咲く時期は多少前後しますが、4月下旬からゴールデン・ウィーク前半に見頃となることが多いようです。
今回は、ボタン見物と長谷寺参拝は横に置いて、長谷寺周辺の興味深い場所を訪ねてみることにします。
●元伊勢伝承地の長谷山口坐神社
近鉄桜井駅から急な階段を下り長谷寺参道に入ってすぐの所の右手に、長谷山口坐神社(はせやまぐちにいますじんじゃ)への小さな矢印標識があります。初瀬川に架かる朱塗りの橋を渡ると、石柱が建っていて、「元伊勢 磯城伊豆加志(嚴橿)本宮伝承地域」と文字が彫られています。中ほどの文字は「しきのいつかし(いつかし)のもとのみや」と読むようです。
元伊勢は、伊勢神宮が現在の三重県伊勢市に鎮座する前に一時的に祀られたと伝承されている場所で、西は広島県から東は愛知県まで100近くあります。伝承ですから一概に信じることは出来ませんし、無視することも問題がありそうです。何はともあれ、元伊勢の伝承がここにあるということで、古代に繋がりを感じました。
何段もの石段を登って行きますと、静かで趣のある小さな本殿があります。
●ハガキの木がある法起院
法起院(ほうきいん)は、長谷寺へ参る道が大きく左に曲がる手前の右側にある寺です。長谷寺を開いた徳道上人が隠棲した場所であり、こじんまりして静かです。徳道上人は西国三十三カ所巡礼の元を作った人と一説に言われていますが、その伝承は閻魔さんが出てきたりして、私には信じられません。
境内には徳道上人の御廟があって、立派な石造りの十三重塔が建っていました。その周りを西国三十三カ所巡りの観音霊場の名が刻印された石板が埋め込まれています。その石板の上を歩いたら労せずして三十三カ所巡礼ができたような気になりました。
御廟内に面白い木が生えています。ハガキの元になったという多羅葉(たらよう)です。木に付いている多くの葉の裏に願い事が書いてありました。古代のインドではお経がヤシの葉などに書かれ、中国ではそれを貝多羅経(ばいたらきょう)と呼んでいましたから、葉に字が書ける多羅葉が寺院に植わっているのは分かるような気がします。なお、多羅葉はモチノキ科の常緑樹で貝多羅経のヤシとは違うものです。
もう一つ興味深いものが法起院にありました。それはインドで制作された仏足石です。仏足石はお釈迦様の代わりにお釈迦様の足跡を拝むというものですが、西国三十三カ所巡礼の伝承がある法起院に足跡という組み合わせが意味深く感じられました。またこの仏足石が、以前に当ホームページで取り上げた壷坂寺の故・常盤勝憲師の好意によってインドで作られたことを知って、寺と寺の繋がりは良いものだなぁと思いました。