① 奈良豆比古神社
奈良豆比古神社(ならずひこじんじゃ)は奈良市の北端の奈良阪町にあります。奈良阪町は京都府との県境に近く、昔から奈良と京都を結ぶ街道が通っているところです。
「奈良豆比古神社」と彫られた石柱を右に見て行くと、石でできた一の鳥居、二の鳥居があって、大きくない神域ですが風格が感じられます。
釣り灯篭が多数釣られた拝殿があり、拝殿の向こうには春日造りの朱塗りの三神殿が見えます。
三体の祭神のうちの一体は、『万葉集』のあの有名な歌「いはばしる 垂水の上の さわらびの 萌え出づる春に なりにけるかも」を歌った志貴皇子(しきのみこ)です。
この神社では毎年10月8日、秋の例祭の宵宮に奈良阪町の人たちによって翁舞が行なわれます。
翁舞は翁の面を付けて舞う能がよく知られていますが、能以前の古い形のもの(式三番と言うそうです)がここで奉納されるのです。
奈良県の山深い神社などで行われている式三番が、奈良市街からさほど遠くないところで拝観できるため、奈良豆比古神社へ行きました。
②翁舞
篝火が焚かれ、拝殿が舞台となって、舞う人や謡をする人、笛を吹く人や小鼓を打つ人などが着座しました。
すべての演者が奈良阪町の翁舞保存会の人だそうです。
舞は少年一人から始まって、翁一人の舞、翁三人の舞、狂言方が舞う三番叟(さんばそう)と続いていきます。翁三人は白い面、三番叟は黒い面を着けて舞います。
きらびやかな衣装、古色がにじみ出ているお面、舞う人の仕草、どれにも目を見張りました。
笛や鼓の音、鼓を打つ人の掛け声、そして謡に耳を傾けました。舞の内容は貴人の「千秋万歳」を寿ぐもので、舞の動作の中に稲作を讃えるような様子が感じられます。
少年(千歳)と三番叟の問答では、一方が話す時に他方が横を向いて相手を見ないという変わった形が行なわれていました。
翁の三人舞は写真の題材として迫力あるものになるはずですが、私の撮影していた場所があまり良くなく、三人そろっての写真は撮れませんでした。
あくまで神様に奉納する舞ですから、神様のいる本殿が特等席なのです。