①翁舞の鑑賞の手引き
神社には『奈良豆比古神社 猿楽を発達させた神様』というモノクロ印刷の小さな無料のパンフレットが置いてありました。
神社の概要が載っています。また、『奈良豆比古神社 翁舞』という薄いA4版の冊子を300円で販売していました。こちらには神社の概要の他に翁舞の詳細説明が掲載されています。
謡の言葉が書かれていますので、舞の時に聞き取りづらかったところもどんな言葉だったのか分かります。
②梅原猛著『うつぼ舟Ⅰ 翁と河勝』
能は日本の伝統芸能ですが、私は能についてほとんど何も知りません。そして能楽以前の猿楽や古い形の舞については全くというほど知りませんでした。
そこで今回、奈良豆比古神社の翁舞を鑑賞するにあたって、梅原猛著『うつぼ舟Ⅰ 翁と河勝』を再読しました。
以前にこの本を通読したことがあり、そこに奈良豆比古神社の翁舞のことが書いてあったことを覚えていたためです。
『うつぼ舟Ⅰ 翁と河勝』には興味深いことが沢山書かれていましたが、特に次の点が重要だと思いました。本の表現を活かした形で概略を書きます。
①大和と京の“境”にあるこの“場”で、翁舞が舞われたことは、この境界の地で悪魔祓いをしていたことを意味する。
(神社の前には「右 京うち道、左 かすが大ふつ道」と彫られた石の道標が立てられていました。)
②志貴皇子の子の春日王が重い病気を患い、奈良坂に蟄居した。春日王の二人の皇子が父の病気が治るよう舞を舞って、父の病気が治った。この舞が奈良豆比古神社に伝わる翁舞なのである。
(梅原猛氏は政変被害者の怨霊の影響についても触れています。)
③白い翁は貴く、黒い翁(ここでは三番叟の意味)は卑しい。
④世の中を恨んでいる黒い翁、つまり三番叟が神仏具の鈴を受け取り、神仏の信者になって、五穀豊穣、千秋万歳を祝うのである。
③歴史を見てきた樟の巨木
奈良豆比古神社境内の裏手に行くと、瞬間的にこれだと分かる樟の巨木が目に飛び込んできます。
根元の幹回りが約12.8メートル、樹の高さが約30メートルあるそうです。私も根元に近づき両手を広げてみましたが、とても自分の方に向いている前面だけでも両手でカバーできませんでした。
幹には穴ができ、幹の上部で「枝分かれ」ならぬ「幹分かれ」しているところには他の植物が根付いていて、樹齢が高いことを示しています。
奈良豆比古神社と共に、古代からの歴史を見てきた樹なのだと思いました。