①奈良県生駒市にある往馬大社
往馬大社(いこまたいしゃ)は奈良県北西部の生駒市にある古社です。
石の鳥居をくぐって進むと直ぐに広場があり、それを囲むように四方に木造の建物があって、境内はひっそりとしています。
東側の建物である「管弦楽座」、および北と南の建物である「北座」「南座」は壁も扉もない吹き抜けで、西の「高座」は数段の石段の上に建っています。
質素な吹き抜けの建物と広場の間に空気が漂っている感じがして心が安らぎます。
宮司さんに特別に案内していただいた本殿は、桧皮葺(ひわだぶき)の春日造の建物が七つ並ぶというものでした。
つまり祭神が七柱なのです。再建されてあまり月日が経っていない本殿は、落ち着いた色合いにも拘(かか)わらずとても美しいものでした。
②昼間の火祭り
往馬大社は「火の神様」として昔から崇められてきました。
現在も十月の第二日曜日に火祭りが前述の広場で行なわれます。
昼間に行なわれる火祭りとして近郊に知られ、当日は多くの観客で賑わいますが、春のこの季節はいたって静かです。
③燃えた杉
私が火祭り以上に関心を持ったのは、拝殿の前にある一本の杉でした。
それは落雷によって燃え、樹の幹の一部が黒く炭化していました。
寺の五重塔や神社の高い木立にはしばしば雷が落ちて炎上したということを本などで知っていましたが、眼前の燃え焦げた杉に落雷の怖さ、凄まじさを感じました。
④大嘗祭で使われる火をおこす木
境内を歩いて行くと、上溝桜(うわみずざくら)との名札が取り付けられている木があります。
上溝桜はソメイヨシノのような花ではなく、ブラシ状の花を咲かせるものですが、この木の特筆すべきことは天皇即位の行事に関係していることです。
天皇が即位して初めて新穀を神々に献じる神事を大嘗祭といいますが、捧げる新しいお米をどの地域にある田から刈り取るのが良いかを占う「斎田点定(さいでんてんてい)の儀」に火を使うのです。
その火をおこす木(火燧木:ひきりき)として上溝桜が利用されます。
古代そして昭和や平成の大嘗祭でも往馬大社の上溝桜が使用されましたので、今度の令和の大嘗祭が注目されます。
令和の「斎田点定の儀」は2019年5月13日(月)に行なわれます。
なお、上溝(うわみず)という名は、占いの溝の「ウラミゾ」から転化したという説を聞いたことがありますが、定かではありません。