①大神神社での写典
寺ではよく般若心経などのお経を書き写す「写経」というものを参拝者に勧めていますが、神社でも同じようなことをしています。
私はそのことを全く知らなかったのですが、一か月ほど前に奈良県桜井市の大神神社(おおみわじんじゃ)を参拝した際に掲示板を見て、「写典」を行っているのを知りました。
そこで、先日、時間に余裕をもって写典に行きました。
拝殿に向かって左側の参集殿で写典の申込をし、神官に案内されて拝殿入口で幣を頭上でサッサッと振るお祓いを受け、写典の間へ導かれました。
写典の間は座り机が配置され、机上には硯や下敷き、写典の手本と解説書、筆と紙などが準備されています。
椅子席はなく畳の間の座布団に座って書く必要があります。
神社で神道ですから、書き写すものはお経ではなく祝詞(のりと)です。
なぜ写典というのか、調べてみると、神典を書き写すというところから来ていることが分かりました。
神典は、仏教の仏典に対する神道の聖典・文献という意味から、そう呼ばれるようになりました。
祝詞は神典の中で最も代表的な文章なのでしょう。
②写典の内容
大神神社では祝詞のうち、次の三種類の祓詞(はらへことば)を書き写すことができます。
どの祓詞を書くかで要する時間が大きく異なりますので、写典に使える時間を考え、種類選択をする必要があります。
なお、毛筆でなく鉛筆等で書けば時間はかなり短縮できます。
イ)30分コース。
祓詞と鎮魂詞。祓詞は神事のはじめに常にあげられる祓の詞で、鎮魂詞は三輪の大神を称えるものです。
ロ)1時間コース
常申(つねにもうす)中略祓詞。大祓詞の最重要部分をまとめたものです。
ハ)2時間コース
大祓詞。奈良時代以前から伝わる祓の詞です。
写典の手本は上記の3コースのすべてが含まれています。
私は30分コースの祓詞と鎮魂詞を毛筆で書き、次に1時間コースの常申中略祓詞を鉛筆で書きました。合わせて1時間ちょっとかかりました。
③写典で困ったこと
私は写典の手本を下に敷いて上に書く紙を載せ、透いて見える文字を書き写したのですが、困ったことがありました。
それは祝詞の言葉と文字に慣れていないため、多くの文字で紙をめくって下の手本の文字を確認しなければいけなかったことです。
万葉仮名のように一文字一音の読みもあれば、普通の漢字のように一文字で数音の読みもありました。
例えば「掛介麻久母畏伎」と書いてあり「カケマクモ カシコ キ」と読むのです。難しくて筆がなかなか進みませんでした。
④祓詞で興味深かったこと
逆に興味深かったことは、家を建てる時などの地鎮祭で聞いたことのある祝詞の一部がこのような文字で書かれていたのかと分かったことでした。
例えば、「ハラエタマエ、キヨメタマエ」は「祓閉給比、清米給閉」であり、「カシコミ、カシコミ、モウス」は「恐美恐美母白須」と手本に書いてありました。
もう一つ非常に興味をそそられたことは「祓閉給比、清米給閉」の対象についてです。
それは「諸諸乃禍事罪穢(モロモロノマガゴト ツミ ケガレ)」で、解説書の「『祓の詞』写典のすすめ」によれば、「知らず識(し)らずに犯し積って来ました諸々の罪穢れ」と説明されています。
私は「諸々の罪穢れ」という言葉を見て、キリスト教の「原罪」という言葉と、東大寺二月堂のお水取りが「悔過(けか)法要」と言われていることを思い出しました。
神道もキリスト教も仏教も、人間は罪深い者、過ちを犯す者と捉えていて、罪や過ちに対する許しを神仏などの絶対者に請う、という形になっているのだと感じました。
⑤大神神社の写典に関して、その他の情報
書き写した写典は、最初に受付をしていただいた参集殿の神官のところへ持参すると、神前に捧げてくれます。
写典の初穂料(費用)は2000円です。祓詞と鎮魂詞、常申中略祓詞、大祓詞の三つを書写しても、どれか一つでも初穂料は同額です。
写典ができる期日と時間は、神事などのある特別な日を除き、午前9時から午後4時(終了)までです。