爽やかな秋晴れの日、久しぶりに郊外へ出かけました。行先は柳生街道の中ほどにある円成寺(えんじょうじ)です。これまで行ってみたいと思いながら一度も行っていなかったからです。
●少ないバスの便
奈良市街から田舎の道を走って柳生方面へ行くバスは、平日で日に3本、土日は日に2本しかありません。行楽シーズンはバスが混み、約30分も立ったまま乗車しているのは疲れますので、始発のJR奈良駅からバスに乗りました。
行楽シーズンには少し早い平日に行ったのですが、やはり近鉄奈良駅前から乗車した人の何人かは座席に座れませんでした。
●色づき始めた静かな庭園
忍辱山(にんにくせん)という仏教臭い名前のバス停で下車し、道路をバスの来た方向へ少し戻ると円成寺の東門があります。
門の向こうに色づき始めた木々が見え、もうこんなに季節は変わって来ていたのかと驚きました。
コロナ禍でほとんど外出していなかったため、季節の変化を身近に感じていなかったのです。
門をくぐり木々の下の道を歩けば左手に池が見えます。水の色も池の周囲の植生も落ち着いた雰囲気です。参拝客も少なく静かです。
右手の石段の上にはどっしりとした風格の楼門が建っています。檜皮葺の屋根の下には「忍辱山」と文字の周囲を彫った額が掲げられています。
円成寺の山号が忍辱山だったのかと初めて気付きました。楼門の右手前の楓はかなり紅くなっていて青空に映えていました。
池の周囲の道をたどっていきました。水面に山や空が対称の姿を映しています。静かです。いいなぁと思いました。
庭園は、当尾の里にある浄瑠璃寺の庭に若干似ています。浄土式庭園の要素を持った庭だからでしょう。
庭園の南側から北の方向を見ると、池の中に島があり、その向こうの山中に楼門が建っています。
●運慶の最初期の制作仏像
相應殿という新しい収蔵施設の中に、運慶の最初期の制作と認定されている国宝の大日如来像が安置されています。
左手をこぶしに握って人差し指を立て、それを右手で握る智拳印(ちけんいん)の仏像です。凛とした姿ですが、表面の金箔が大分剥がれて下地の黒い漆の部分と金箔の部分が斑になっています。
この仏像の体内から発見された紙に、運慶が25歳の頃に制作した像であることが書かれていました。
書かれている文章から推測するに、初めて独り立ちして造った仏像である可能性が高いです。
私たちが新たな仕事に取り組む時にこの大日如来像を拝んだら、力が体に漲ってくるかもしれないと思いました。
●本堂内陣の柱絵
本堂内陣の4本の柱には雲に乗った菩薩の絵が描かれていました。
以前に新聞か何かでこの柱の絵について読んだ時には、絵がはっきりと見えると書いてあった気がしますが、実際に見てみるとほとんど消えかかっています。
多くの菩薩像は輪郭が柱の表面に微かに見えるだけです。
それでも一体の菩薩だけはかなり絵がはっきりしていて、描かれた当時の様子を想像させてくれます。
人が死んだときに菩薩が迎えに来てくれるという来迎図のようです。
極彩色でない絵、色が剥落した絵だからこそ、菩薩が天からやってくるというイメージが自然に浮かびました。
●春日堂・白山堂
本堂の東側に、寺を守る社として春日堂と白山堂の2つの社殿があります。
小さなものですが国宝になっています。
それは、この社が奈良市内の春日大社から鎌倉時代の初期に移築されたもので、現存する全国で最も古い春日造りの社殿のためです。
●美味しかった食事処「里」の天丼
円成寺の庭園の一角にと言って良いと思いますが、池をめぐる小道のすぐ傍に落ち着いた雰囲気の食事処「里」があります。
玄関を入るとプーンと良い香りがし、お土産にとマツタケが並べてありました。
「地の物ですか」と聞いたら、「先週までは吉野の物が来ていたのですが、これは中国産です」との正直な答えに心が和みました。
頼んだ食事は天丼だったのですが、素晴らしいものでした。
天婦羅は2匹の海老と、シシトウ、薩摩芋、ゴーヤ、茄子、三度豆、かぼちゃの7種が上品な味の卵とじの上に置かれていて、とても美味しかったです。