奈良に雪は降るか

クリスマスにこの冬一番の寒波が来て、北日本や北陸地方は激しい雪になっています。関西の内陸部の奈良は雪になるでしょうか。

東京に住む知人などから「奈良でも雪は降るのですか?」とよく訊かれます。答はイエスで、奈良にも雪は降ります。写真家の土門拳さんが、奈良県南東部の山間部にある室生寺の雪景色を撮影しようとして門前の宿屋に何日も宿泊し、ついに雪の写真を撮ったという写真界では有名な話があります。

また、奈良市内でも写真家の入江泰吉さんが、降りしきる雪の中に東大寺南大門と寒そうな鹿を写真に撮っています。歴史の重みを感じさせる良い写真で、確か題名は「ふる雪」だったように思います。

私が奈良に住んでいるときにも何度かかなりの量の雪が降りました。北国と違い、車にチェーンも積んでいませんでしたから、雪が降って積り出すと、車を道路わきに放って家に帰ったものです。

お水取りの終わりの頃にも雪は降るか

一般に「お水取り」として知られています東大寺二月堂の修二会はほぼ1カ月にわたる法要ですが、その本番ともいうべき本行(ほんぎょう)は3月1日から14日まで行われます。私が3月初旬にお水取り見学に行った時もとても寒く、粉雪がちらついていました。

本『迦陵頻伽 奈良に誓う』でお水取り最終日、つまり3月14日の夜から雪が降り、翌朝には唐招提寺に雪が積もっているシーンが出てきます。これに対して、「3月中旬にもなって奈良に雪が降るのだろうか。まして積るなんてありえないのでは?」「小説だから自由に書いているのだろう」と何人かの人からコメントをいただきました。

奈良の美しい自然を書きたい、そのためには雪のシーンも是非書きたいと私は思っていましたが、ありえないことを小説だからといって勝手に書くことはしたくありませんでした。それでは真実味が薄れてしまいますから。

近年、地球の温暖化が進んでいますが、過去に奈良で3月に雪が降り、そして積ったことがなければ、お水取りの終わりの翌日に雪のシーンは書けません。

歴史的には寒い冬と暖かい冬が長期のサイクルで繰り返されて来たと言われています。奈良ではいつ頃まで雪が降るのか調べてみました。

気象統計情報

現在は貴重なデータがインターネットで検索できます。「気象庁のホームページ」を開き、順に「気象統計情報」、「過去の気象データ検索」、地域を奈良県の奈良市に指定して各年3月の「日ごとの値」を検索しました。

その結果、主な年の3月の降雪量は次の通り表示されました。

1963年3月13日 19cm

1977年3月04日  3cm

1984年3月19日  1cm

1987年3月07日 12cm

これらのデータを見て、3月14日の夕方から雪が降り始め、15日の朝に5cmほどの雪が積もっていることは荒唐無稽ではないと判断しました。

*ご参考までに、「過去の気象データ検索」のURLを掲載しますと次の通りです。

http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php