夫婦で小説を合作
KBS京都テレビに出演して、小説「奈良に誓う」を出版するまでの経緯を紹介させていただきました。あらためまして、
1.夫婦合作小説の反響
2.合作のきっかけ
3.夫婦合作の面白さ
4.合作は冷や汗もの
5.夫婦のこれから
ということで紹介させていただきます。
1.夫婦合作小説の反響
私と妻は奈良を舞台にした小説『迦陵頻伽(かりょうびんが) 奈良に誓う』を書き、昨年出版した。友人・知人にその旨を連絡したところ、多くの人がオンライン書店や一般書店から購入して読んでくださった。そして、いろいろの感想が寄せられた。 「奈良へ行ってみたくなった」、「鑑真と唐招提寺について詳しく知ることができた」などのコメントは制作意図にも合致していて嬉しかったが、ほとんどの人から「夫婦で小説を合作したことに吃驚した」「あとがきを読んで夫婦の仲の良さに感動した」というようなコメントが届いたことに、私と妻はとても驚き、照れくさく感じた。
2.合作のきっかけ
夫婦で合作することになったきっかけは、八年前の夏に、妻が幼稚園時代からの友人と二人で奈良の唐招提寺へ行き、ボランティアの説明の人から弥勒如来の話を聴いてきたことである。弥勒如来は弥勒菩薩がいまだ修行中の身でありながら、仏様である如来になったため人々を救うことができないという。この話に興味を抱いた私たち夫婦は、どのように解釈したら良いのだろうと話し合った。 私の当時の主務は民間会社で働くことであり、ご他聞に漏れず帰宅が遅い。そのため夫婦の会話は休日の朝にコーヒーをゆっくり飲みながら行われることが多かった。会話の時間は結婚当初から持たれていたのではなく、多くの紆余曲折があって持たれるようになり、習慣化したものである。 ある休みの日の朝、妻がこの間の弥勒如来の話を小説にしてみたいと言い出した。それは面白いかもと賛成し、二人で話し合って、物語については妻が、背景となる奈良のお寺や行事は私が書くことにした。そして数週間後に、妻が書き出した物語を見せてもらったら文章がピンと来なかった。後日、妻の文章力が低くないことを思い知らされるのだが、そのときは私にはそう思えた。「俺が書いてやるよ。このテーマは俺に任せろ」と言って、無理やり妻からこのテーマを奪ったのである。妻は不承々々了解した。条件は「ストーリーなどは私の意見を聴いて、一緒に考えること」だった。
3.夫婦合作の面白さ
「お寺の話なのに若い男女の物語ではおかしいのでは?」と私が言えば、妻は「いいんじゃない。若い人もお寺に関心を持っている人がいるし、中年の人も自分を若い時に置き換えて恋愛感情に浸りたいのだから」と応える。そんな風にして、テーマ、ストーリー、作品の題名、主人公の職業や名前などを、二人で毎週のように話し合った。話し合いですんなり決まるものもあれば、意見が合わず、私が文章を書く実務者として力で押し切ったものもあった。 傑作だったのは主人公の名前決定である。妻が「男性主人公の名前は『貴一』が良いわ」と言い、私は「女性主人公の名前は絶対『あずさ』だ」と言う。どうしてそうなのか。お互い、好きな俳優さんの名前を付けていたのだ。
4.合作は冷や汗もの
小説の夫婦合作は楽しいことばかりかというと、決してそうではない。冷や汗をかくことも多い。主人公の行動パターンや発言内容に、自分の人間としての不出来さが表れてしまうからである。尊大であること、優しさが足りないこと、押し付けがましいことなどが、自分の書いた文章を通して目の前に示される。「そんな偉ぶった発言は良くないんじゃないかしら」、「相手の意向を聴いて尊重することが大切だと思うわ」などと妻から言われると、私は日頃の自分の言動を反省せざるを得なかった。そして私も妻に「会社ではこうだよ」、「甘いことを言っていたら、商売はやっていけないんだ」とビジネス社会での厳しさを話したりした。妻は夫が外でどんな風に働いているのか改めて感じたとのことだった。その意味では、小説の夫婦合作はお互いの気付きと人間成長に役立ったと言えるのかもしれない。
5.夫婦のこれから
結婚当初、男尊女卑の考えが染み付いていた私と、私から何か言われたら一言も反論できなかった妻が、各種の人生経験をしてきて互いに対等に話すようになった。そして今回、小説を二人で作る過程で、より多くの会話を本音で行い、相手の良さを改めて認識することができた。昨年の年末に私が民間会社を定年退職した時、離婚を宣言されなくて済んだ。是非この調子で行けるよう、日々少しずつ努力していきたいと思う。良い夫婦生活の合作はこれからである。